ゴーン事件の概要

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2021年4月5日月曜日

事実の概要 (1)


 人質司法からの脱出

 突然の逮捕

2018年11月19日、ゴーンは突然逮捕された。これを独占生中継したのはテレビ朝日一社だけという一大スクープであった。このあと、朝日新聞の怒涛の如きゴーンの犯罪報道が一週間にわたって一面トップ記事として続いた。事前にしかも相当長期間にわたって準備された官民一体の犯罪報道であった。

世界的大企業のトップが突然、金融商品取引法違反、それも有価証券報告書重要事項虚偽記載罪の容疑で逮捕されるというのは極めて稀であり、そもそもトップ2名だけが逮捕されるという形態そのものが法論理的に有り得ないものであった。ただ、この法理論上の矛盾は未だに専門家によって指摘されていない。これが日本の企業会計論、会社法の実務の実態である。

報道記者は法律に無知無教養だから逮捕手続の詳細を知らない。ゴーンの逮捕には一応の証拠が必要であり、それが会社会計資料であることは罪名から当然である。そして、会社会計資料が、トップ2名の知らない間に検察に任意提供されることは窃盗や犯罪手段による以外には考えられない。これを誤魔化すために用いられたのが耳新しい司法取引であった。報道記者らは一層煙に巻かれてしまった。

 陰謀の発覚

 準備万端の日産幹部とフランス大使の体験。

全く事情が呑み込めなかったゴーンは面会に来たフランス大使に、すぐ日産に弁護人選任を依頼した。フランス大使は直ちに日産を訪問してゴーンの依頼を伝えた。しかし、言下に拒否された。極めて予想外の対応である。会社のトップが逮捕されたのだから、会社は先ず一番に弁護人選任に走るのが常識である。

ここで、フランス大使は残りの取締役らの違背を悟り、直ちにその旨を伝えた。ゴーンはこれで事件の全て、本質を理解した。

事件が残りの取締役らによって仕組まれた陰謀であることは、実は当初から自慢話として報道されていた。それはケリーに対する陰謀である。ケリーは体調不良で、静養のため国外に身を置いていた。東京本社からの出社依頼を当初断っていた。それをなだめすかしてなんとか来日させ、素早く身柄拘束をした、と報道されていた。思えば、既にこの時点でゴーンとケリーは真っ黒な犯罪者で、有罪推定は当然であった。

ゴーンは一貫して事件は検察と謀反取締役らによる陰謀であると主張したが、日本のマスコミは一社として聞く耳を持たなかった。

 被疑事実の明らかな濡れ衣

 検察の独善解釈と沈黙する主務官庁。

金融商品取引法(以下金商法)を一度でも目を通した経験があれば、同法が発行会社を対象とした行政処分の根拠法であることが理解できる。刑事処分は膨大な条文数のうち、有価証券報告書重要事項虚偽記載罪に関する条文は第197条1項と第207条1項1号だけである。前者は提出者を処罰する規定で、後者は虚偽記載行為をした者を処罰する。各事項の記載は各部門の担当者であり、その全体を取締役が最終的に取締役会で確認・承認する手順であるから、このような規制となっている。

問題は重要性の判断基準である。数量的な記載であるから、真実数値との乖離がどの程度なら重要といえるかどうかの判断となる。その重要性の判断は投資家の判断に影響を及ぼす程度でなければならない。本件の具体的事項は役員報酬であり、役員報酬の決定プロセスは公開されている。それによれば、当期の役員報酬の総額は株主総会で決定され、具体的な個々の役員に対する報酬は取締役会の決定によるが、日産では具体的金額の決定はさらに3名の取締役に委任されている。

ゴーンとケリーと西川廣人の3名による合議決定に委ねられている。この手順であれば、役員報酬の総額が株主総会の議決以内であれば、問題を生じない。事実、日産の役員報酬はこの要件を充足してきた。

検察は何をもって虚偽記載としたのか。検察の主張によれば、ゴーンは毎期の公表された役員報酬の他、およそそれと同額のヤミの報酬を受けていたと主張する。但し、その報酬は将来の役員退任時に、競業避止契約や社外コンサル契約の報酬額とするとして、毎期、具体的金額まで決定し、書面にして秘書室金庫に内密に保管させていた、という。

検察は明らかに企業会計の初歩を知らない。役員報酬は会社債務であるから、将来に支払われる債務であっても、発生主義であるから、各期に引当金とともに取締役会の承認を経なければ正式の債務とはならない。そもそも3名の取締役による具体的報酬金額の決定は、あくまで取締役会に提出する支給案であり、取締役会の承認がなければ、金庫の奥に有ろうが机の上にあろうが、秘密であろうがなかろうが全くただの紙切れに過ぎない。

監督官庁・SECをはじめ、内部監査役、外部監査会社の公認会計士が誰一人、長年、虚偽記載を指摘しなかたこと、検察がゴーンを検挙しても同じ構成要件でありながら行政処分の一つでもださなかったこと、沈黙を続けたことは、極めて当然のことである。但し、SECは後に直近3年分については検察と歩調を合わせ、行政処分と刑事告発をした。すでに刑事手続きが着手されているにも拘わらず、刑事告発をした例は寡聞にして知らず。直近3年分には極めて大きなメッセージがこめられており、別途詳論する。